「冷えると痛い、温めると楽」は超重要な所見
「先生、この足のしびれ、寒くなるとひどくなるんです。夜中にこむら返りもして。でも、お風呂で温めるとスッと楽になる」――冬の外来で毎日のように聞く訴えです。
私たちはこれを何気なく「冷えると悪化、温めると軽快」とカルテに書きます。ところが漢方は、この一言から処方の方向を決めます。
寒熱 ― 温めるのか、冷ますのか
冷えで悪化して温めると軽快する状態を寒(かん)、熱感があり発赤があって冷やすと楽な状態を熱(ねつ)と呼びます。そして――方向が真逆になります。
同じ関節痛でも、寒の関節痛には温める方剤、熱の関節痛には熱をとる方剤。寒熱を取り違えると、効かないばかりか悪化することもあります。ここが、症状だけを見て薬を合わせる(マッチング)ことの落とし穴です。
虚実 ― 反応する力の物差し
もう一本、大事な物差しが虚実(きょじつ)です。若い患者と80代の患者では、同じ腰痛でも治り方が違う――その違いを漢方は虚実で捉えます。
- 虚=生体の反応力が低下している(体力が落ちている、年齢を重ねている)
- 実=反応が過剰・充実している(元気が良すぎる)
冒頭の患者は、冷えで悪化・温めて軽快だから寒。70代で体力が落ちているから虚。合わせて虚寒(きょかん)。方向は「温めて補う」――たとえば 桂枝加朮附湯。一方、熱感があって体力のしっかりした患者なら方向は真逆、熱をとる 越婢加朮湯 へ。
病名では処方が決まらない
同じ関節痛が、寒熱と虚実の置き場所でここまで変わる。だから漢方では、病名だけでは処方が決まりません。その時点の患者の状態を見て、初めて方向が決まる。それが証です。次回は、この寒・水滞・腎の衰えが一人の患者で束になる「腎虚」を扱います。
寒熱・虚実のレバーを動かして方剤が入れ替わる様子は 証エクスプローラ で。附子(桂枝加朮附湯)・麻黄(越婢加朮湯)の注意点は第4回「安全性」で扱います。